コストダウンの考え方
会社の利益は、『利益=売上-費用(原価)』が一般的に言われています。純利益が増えたということは売上が上がったか、コストが下がったかのどちらかになります。「業務効率化によるコスト削減」というミッションを一度は与えられた方も多いのではないでしょうか。
それでは、業務を効率化したら本当にコストを削減できるのでしょうか? 「どのように業務を効率化するのか」という方法を解説する書籍や記事は多いのですが、「業務を効率化したら本当にコストを削減できるのか?」という質問に対する解説は記載されていないことが多いです。なぜなら、業務効率化の方法を論じるうえで業務効率化によってコスト削減ができる前提となっているためです。
業務効率化を単なる作業人員削減で捉えるとコストダウンを一時的に達成できたとしても
- 不具合対応までの時間が取れない
- 品質に絡む作業の時間まで削られてただ組み立てるだけとなり後工程を意識した組立ができず、長期的に品質の低下を招いてしまう。
- 無理な人員削減によりいざという時の対応ができなくなる。
等の潜在不具合要素を抱えたまま進んでしまい、作業者疲弊に伴い限界オーバーして、一挙に市場クレームを出しかねません。そうなると何のためのコストダウンかわからなくなります。
そこで、
《人を減らす》
⇒《作業内容の細分化による分解》
⇒《不要部と必要部を明確にする》
⇒《本当に減らせるか》
と細かい段階を検討して進める必要があります。また、極力自動化も同時に進めて作業者の作業内容のレベルアップと単純作業から工程全体に中で品質アップに寄与できる人員にレベルアップし、短期的には生産性寄与しない可能性もありますが、中長期的に信頼性向上による受注量アップに着眼して進めるほうが、これからのものづくりには必要な観点と言えます。
以下は詳細の考え方を記載します。
■現場に分散しているデータを統合しリアルタイムに課題を把握し改善のヒントにつなげる
《正確なデータ収集》
- 分散するデータをシステム横断で収集
- リアルタイムなデータ収集
- データの再集計や収集データの加工などの自動化
《経営視点の情報分析》
- 製造全体の状況を俯瞰
- 重要指標のリアルタイムな定点観測
《データにもとづく情報分析環境の構築》
- 重要指標から現場データまでのドリルダウン
- 現場データと周辺データを組み合わせた多角的な原因分析
- 打ち手につながらる詳細な現場データの把握
コストダウンの考え方
1.コストの考え方
コストダウンについて考える前に、まずはコストの考え方について確認する必要があります。
コストとは、ある目的を達成する(成果を得る)ために消費された価値、つまり、必要になった財貨および用役を貨幣の単位で計算したものであると定義できます。普段我々は、コストは「かかってしまうもの」と思いがちです。しかし、この考え方から、成果を得るためには「いかに最適なコストをかけるか」という発想に切り替えることが大切です。
つまり、コストに関する基本的な考え方として「コストはかかるもの」ではなく、「コストはかけるもの」という視点が必要です。そして、「どのような方法、どのようなシステム」を採用するかでコストの大きさが異なってきます。
このようにコストを科学的に分析し、どうしたらもっとも経済的になるかを明確にしていくことが、コストダウンを考えるうえで大切なポイントとなります。
以上のような観点から、コストコントロールとコストリダクションという2つのアプローチ方法があげられます。
2.コストコントロール(原価維持活動)
コストコントロールとは、業務の現実コストに対し、
- 材料に無駄はないか
- 人員に無駄はないか
- 設備に無駄はないか
- エネルギーに無駄はないか
などのコスト統制での無駄の排除によって、コストを低減していくことです。
コストコントロールでは、従業員に与えられた仕事が計画どおりに遂行できるかどうかが問題になります。たとえば、
- 計画(標準)が立てられているか、その計画は適当か
- 計画(標準)は知らされているか、その知らせ方は適当か
- 実績は計算されているか、その計算方法は適当か
- 標準と実績の差を把握しているか、その差のつかみ方は適当か
- 差を埋める行動はとられているか、その行動は適当か
といったことが具体的な活動になります。
計画どおりに仕事が進まないと、計画した標準コストと実質(現実)のコストとの間に差が生じます。そこで、いくらで作れると計画した標準コストと実質コストとの差、つまり実質ロスをなくすことがコストコントロールの目標になります。そして、その差を埋めるためにコストダウン活動を実行することになるのです。
3.コストリダクション(原価低減活動)
コストリダクションとは、いわゆる標準コストを引き下げることを意味します。
現在の標準または予算として決められているコストの大きさは、現在実施している方法やシステムによって確定されたものです。したがって、より経済的な方法やシステムに改善することができれば、現在用いられている標準や予算そのものを引き下げることが可能です。
この活動では、現在の製造方法や販売方法、あるいは管理方法などを変えてもよいから、より安価にかつ迅速にできる方法やシステムがないかといった視点で考えます。
つまり、最善の方法・システムをとっていないがために、標準コストが高く設定されていたり、機会ロスが生じているのであれば、これを削減する活動です。この改善のポイントは、現在の標準コストよりさらに低い目標コストを設定することからはじまります。
4.コストダウンの考え方(コストコントロールとコストリダクション)
コストダウンを考えるときには、実質ロスをなくすためのコストコントロールと、機会ロスを排除しようとするコストリダクションとを完全に分けて検討する必要があります。
コストコントロールは、標準(コスト)を正しく決め、標準を守らせ、守られていることを確認する管理のことです。一方コストリダクションは、現在の標準コストを決めている要素・要因を見直して、その製品の機能は何であるかを明確にし、その機能を果たすために投入している資源を組み替えたり、簡素化したりして改善活動を行っていく管理のことです。
このように前者の「標準を守らせるための管理」と後者の「標準を変えるための管理」は、まったく違った管理技術となります。したがって、これらを峻別して実施しなければ的確なコストダウンを実現することはできません。また、2つのコストダウン活動が実施される部門も異なります。
コストコントロールは、製造部門などの現場(ライン)を中心に実施され、あらかじめ設定された標準コストを維持するために、日々の生産活動などを行います。これらの活動を通じ、実質コストが標準コストと一致しはじめると、コストリダクションにおいて、標準コストそのものを引き下げる活動を実施することになります。
コストリダクションは、設計や企画部門(スタッフ)で実施され、目標コストの設定からはじまります。これらの部門では、標準コストをこの目標コストに近づけるため、製品や工程の再設計や新しい方法を生み出すことになります。
コストダウン活動の基本的な考え方は、
「コストコントロール → コストリダクション → コストコントロール → コストリダクション」
という形で、それぞれが適切な部門・タイミングで実行され、
「実質ロス削減 → 機会ロス排除 → 実質ロス削減 → 機会ロス排除」
が交互に繰り返されて、大幅なコストダウンが図られていくというものです。
コストダウンの進め方
1.コストの体系
具体的にコストダウンを進めるときに、コスト要素についても理解する必要があります。
コストを分解すると、
- 製品を作るという目的を達成するために消費した価値を製造コスト
- それを販売する目的で使った価値をマーケテイングコスト(販売コスト)
- それを販売し商品を流通させるために消費した価値を物流コスト
- さらにこれら製造・販売・物流を効率よく行うために消費した価値を管理コスト
とすることができます。
また、これらのコスト以外にも、
- 機会コスト:取引チャンスを逃すことなどにより発生するコスト
- 時間コスト:時間をかけすぎてしまうことにより発生するコスト
- クレームコスト:顧客からのクレーム対応により発生するコスト
といった顕在化しにくい目に見えないコストについても、場合によっては認識する必要があります。
2.コストダウンの手順
コストダウン活動は、どのような手順で実施していけばよいのでしょうか。
一般的には次のような手順により、コストダウンの目標を立て、必要部門・担当者が責任をもって実行していくことになります。
【STEP 1】:製品別・部門別・費目別のコスト構成をつかむ
コスト構成を明らかにすることで、どのようなコストがかかっているかを把握します。
また、これによりコスト意識を担当者に自覚てもらうこともできます。
【STEP 2】:コスト構成からコスト削減のターゲットを絞る
どのコストに削減のターゲットを絞ればよいか検討します。
このとき、コスト項目のなかの金額の高いもの、コストが最近上昇しているものなどを重点管理項目とします。
【STEP 3】:コスト要因を分析する
重点管理コストに対して、コスト発生の要因を分析します。
また、どのコストが低減可能で、コストダウンに効果的なのか考えます。
【STEP 4】:2つのコストダウンの手法でアプローチする
分析したコスト要因について、「□コストダウンの考え方」で述べたコストコントロールとコストリダクションの2つの手法で、どのようにアプローチしたらよいのかを検討します。
【STEP 5】:コストダウンの目標を設定する
アプローチ方法を確定したら、具体的なコストダウンの目標を設定し、担当者に割り振り、いつまでに、どのように、どれだけコストダウンを図るのかを明示します。
3.費目ごとのコストダウン
具体的なコストダウンは、各製品、各部門、各費目別に実行されます。
それでは、各費目コストについてどのような視点でコストダウンを考えたらよいのでしょうか。
以下に各費目のコストダウン例をあげていきます。
(1)材料費のコストダウン
製造現場などで発生する材料費は、材料の消費量に単価を掛けたもので計算されます。したがって材料費のコストダウンには、その要素である消費量か単価の低減を図る必要があり、次のような対策が考えられます。
【材料消費量の削減策例】
・品設計段階で部品点数の削減を検討しているか
・生産ロットは適切か・過剰な品質(部品の品質が要求性能を上回るなど)になっていないか
・適切な検収をしているか
【単価の引き下げ策例】
・購買市場の調査に基づく購入先選定は適切か
・大量仕入れ、一括購入を検討しているか
・支払い条件は適切か
(2)労務費・製造経費のコストダウン
製品の生産過程において工場などで支出されるおもな費用は、現場で働く従業員の人件費と工具やエネルギーなどの製造経費となります。これらのコストダウンを進めるには、作業の無駄を省き、作業の改善を図る2つの観点から次のような対策が考えられます。
【作業の無駄の排除例】
・原材料の不足などによる手待ちの削減
・道具や設備の故障、トラブルの削減
・予定変更の多発の削減
【作業の改善例】
・新設備導入による作業の自動化
・作業研究による作業の標準化
・工程の短縮や組み合わせによる簡素化
(3)販売費のコストダウン
販売費のコストダウンを図るには、マーケティングの基本的な考え方を理解する必要があります。つまり、顧客のニーズをつかみ、そのニーズを満足させるためにどのような製品・
サービスを、どのような時期・場所で、どのような方法および価格帯で提供していけばよいのかという自社に適したマーケティング活動を行う必要があります。
たとえば、高齢者向け製品の販売を考える場合にインターネットを広告媒体として活用しても、高齢者のインターネット利用率を考えるとあまり大きな効果を期待することはできません。
そこで、インターネットによる広告が、果たして自社のターゲットに適した方法なのかを検討し(実質ロスの削減)、より効果的な広告媒体を模索(機会ロスの排除)するのです。
(4)管理費のコストダウン
管理費は、人事、経理、総務などのスタッフ部門で発生する給与や経費がおもなものになります。ここで発生する費用は、直接売上の拡大に貢献するものではありませんが、
企業を効率よく運営していくには見直す必要のあるコストです。
しかし日本では、生産現場での合理化は比較的進んでいるものの、これらスタッフ部門を中心とした間接部門(オフィス等)の合理化はあまり進んでいないのが実態のようです。したがって、事務の適正化や余剰人員の再配置などを進め、スタッフ部門の最適な規模と業務内容を維持することが管理費のコストダウンの主眼となります。
4.トータルコストダウンの仕組みをつくる
企業のあらゆる活動にはコストがかかります。コストダウンを検討するとき、これまで述べてきたように費目ごと、部門ごとに直接焦点をあてて改善策を練っていきますが、これも全社的な調整のなかで進めなくてはなりません。
部門同士が敵対関係になると、たとえば、「売れればよいということでどんどん値下げする販売部門があるから、我々製造部門のコストダウンも水の泡になってしまう」という状況になりかねません。
自部門の利益が他部門の損失にならないようにするためには、
◎他部門の利益は自部門の利益
◎他部門の損失は自部門の損失
といった全社的なトータルコストダウンの仕組みが必要になります。
トータルコストダウンの仕組みづくりには、強力なトップマネジメントに基づくプロジェクトチームを結成し、実行していくことが有効になります。具体的には次のような手順を踏んでいくことになります。
【STEP 1】:トップによる組織の革新の提示
・利益確保におけるトータルコストダウンの必要性を全社員に徹底
【STEP 2】:プロジェクトチームの発足
・プロジェクトの企画
・プロジェクト・マネージャーの任命
・各部門のメンバーで構成されるプロジェクトの発足
・各部門、各職場のコストダウン目標の実現
【STEP 3】:トータルコストダウン活動の実行
・プロジェクトチーム主導の全社的な活動の実施